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空き部屋を狙った居直り強盗

防犯事例4:空き部屋を狙った居直り強盗イメージ画像1子どもたちが独立して数年、渡辺義雄さん(60歳)と輝子さん(58歳)は、老年期にさしかかった夫婦2人だけの生活を楽しんでいた。現在30歳になった長男と27歳の長女がまだ小学生だった時に建てた自宅は、4人家族がゆったり暮らせるように設計したものだから、2人には充分すぎるほどの広さがある。

11月の冷え込んだ夜だった。義雄さんと輝子さんは、いつものように午後11時過ぎに1階の寝室に入った。子どもたちの幼い頃の思い出話で和んだまま、輝子さんはベッドサイドの灯りを消した。
夫婦がすっかり寝ついた午前2時半、渡辺家では異変が起きていた。
何も知らない輝子さんはトイレに目覚めた。夫婦の寝室からトイレまで続く廊下には感知式の照明が設置されているので、その灯りを頼りに輝子さんは歩いていた。
用を足した輝子さんが寝室に戻ろうとした時だった。突然人影が近寄り、輝子さんの喉元(のどもと)にナイフを突きつけた。抵抗する間もなかった。
「声を出すな!言うことを聞けば、何もしない」
怯えきった輝子さんの両手の親指を手際よく結束バンドで縛った男は、輝子さんを寝室に連れて行き、義雄さんを起こさせた。
「な、なんだ!ドロ......」
叫ぼうとする義雄さんの顔をいきなり殴りつけ、口に粘着テープを貼った男は、
「床にうつ伏せになれ!」
と命じた。そしてベッド脇のクローゼットを開くと、中にあったネクタイで、うつ伏せになった義雄さんの手足を縛り、クローゼットの中に押し込んだ。義雄さんは必死で動こうとしたが、男はクローゼットの扉もネクタイで縛って輝子さんのほうに向き直った。
「た、た、助けてください......」
すがろうとする輝子さんの縛られた指は、すでに紫色に変色している。男は、輝子さんの結束バンドをナイフで切ると、
「まずは、金を出してもらおうか」
とドスのきいた声で脅した。輝子さんは、男にナイフを突きつけられたまま家の中をおどおどと歩き始めた。夫婦の持ち合わせの現金を探したが、2人分を合わせても54,000円しかない。輝子さんは次に宝石箱から宝石類を渡した。義雄さんが大事にしている時計や、結婚記念日に贈られた指輪などを含め、金額にすると800万円は下らなかった。
「もうないのか?じゃあ、キャッシュカードだな」
輝子さんは、命を守るためには従うしかないと観念していた。キャッシュカードを3枚渡した輝子さんに、男は
「暗証番号を言え!もし違う番号なんか教えたら、必ず戻ってきてやるからな」
と、ナイフを開け閉めして音を聞かせた。輝子さんは、かすれた声でそれぞれの暗証番号を教えた。男は、輝子さんの口に粘着テープを貼り、床に寝かせ、ネクタイで両手両足を縛って去って行った。
輝子さんは30分ほどかけて自力でネクタイをほどき、クローゼットの中の義雄さんを救出した。義雄さんは精神的なショックに加えて持病の喘息(ぜんそく)の発作を起こしており、ぐったりしていたものの、救急車を予防とした輝子さんに、まず先に銀行のコールセンターに連絡をしてカードを止めるように指示する冷静さを残していた。
だが男は、渡辺家を出てからわずか15分の間に、数カ所のコンビニのATMから合計230万円をすでに引き出していた。

通報を受けて駆けつけた警察官が家の中を捜索すると、長女が使っていた2階の部屋の窓ガラスが割られていることがわかった。
長女の部屋は裏庭に面している。女の子の部屋が道路から見えると物騒だと思った輝子さんの配慮だった。その窓には網入りのガラスが入っていたが、それはあえなく割られていた。
子どもたちが使っていた2階にある2つの部屋は、今はまったく使っておらず、それぞれの住まいに置ききれない物などが雑然と置かれている。輝子さんが1カ月に一度ぐらいは換気をするものの、ふだんはカーテンも閉めたままにしていたし、もちろん夜になっても灯りをともすことはなかった。
警察官が侵入口になった窓から裏庭をのぞき込むと、そこには長い脚立が置いてあった。前の日に義雄さんが庭の柿の木になった実をとるために使ったものだ。一部に錆(さび)が出ていたので、手入れをしてからしまおうと思ってそのまま庭に置いていたのだ。犯人がその脚立を使って侵入したことは間違いなかった。

やがて、この犯人は逮捕された。
渡辺家に狙いをつけた男は、犯行に及んだ2週間ほど前から、50メートルぐらい離れた空き地に車を停め、毎晩のように車の中から観察していた。その場所は古い家屋が取り壊され、ビルが建てられる予定だったが、計画が頓挫(とんざ)したまま空き地になっていた。
真っ暗な空き地なので、男は人に気づかれることなく見ていたつもりだったが、実は毎晩犬の散歩をしている近隣の商店主が不審に思い、車のナンバーを控えていた。この商店主は地域の防犯パトロールに参加しており、日頃から不審人物や不審車両には注意を払っていたのだ。
逮捕された男は、いつも灯りもつけず人けがない2階の部屋に目をつけ、忍び込みを企んだと自供した。しかし、ナイフと結束バンドを持っていたことで、家人に見つかった時には居直るつもりがあったことも認めた。
輝子さんを捕らえる寸前、男はリビングルームの壁にかかった額の裏を物色していたという。その時に額が外れガタンと音を立ててしまったことで、てっきり輝子さんに見つかったと思い込み、居直り強盗に変身したのだ。
引き出された現金は戻らなかったものの、宝石類については、幸い犯人が処分する前だったので手元に残った。
だが義雄さんは、その夜の喘息の発作から呼吸困難に陥(おちい)って入院した。輝子さんは縛られた両手の親指に痣(あざ)が残り、睡眠薬を飲まずに眠ることができない日々が続いている。
命が狙われるという最悪の事態は免れたとはいえ、心に残った傷は、簡単に癒されるものではない。独立した2人の子どもたちは、親元に戻ることにした。

空き部屋は侵入口になりやすい

防犯事例4:空き部屋を狙った居直り強盗イメージ画像2この事件では、被害者が騒がなかったことが何より幸いだった。もともと犯人は家人が寝ている間に犯行を済ませるつもりだったのに、輝子さんが起きてきたために忍び込み犯が居直り強盗になったわけで、もし抵抗していたらさらなる凶悪犯になっていた可能性がある。
消灯から2時間後というのは、最も泥棒が入りやすい時刻である。というのは、どんなに寝つきが悪い人でも2時間あれば熟睡しているもので、犯罪者は外から消灯を確認した2時間後に犯行に及ぶことが多いのだ。
今回のケースでもそうだが、築20年以上の家ともなると、夫婦が2人だけで暮らしている家庭が多い。新築した時には小さかった子どもが独立してしまうため、子ども部屋が空き部屋になってしまうわけだが、防犯上、空き部屋の管理は重要である。いつも閉め切っている空き部屋は、ガラスを割られても気づきにくいため、格好の侵入口になってしまう。したがって、そこが空き部屋であることを、外から見て悟られないようにする配慮が必要だ。
侵入された窓には網入りガラスが入っていたが、防犯の観点から言えば、網入りガラスは決して強くはない。誤解している人が多いが、割って入るのに普通のガラスも網入りガラスも侵入犯にとっては同じである。簡単に割られたくなければ、防犯ガラスにするしかない。あるいは、窓を開けると作動するマグネットセンサーを取り付けて、大きな音などで侵入者を威嚇(いかく)する方法もある。

2階への足場になる物はないか

防犯事例4:空き部屋を狙った居直り強盗イメージ画像3庭に置いた脚立の管理にも問題があった。庭には足場になるような物を放置しないこと。侵入者は足場として使えそうな物なら何でも使って2階のベランダから簡単に入ってくる。
脚立は物置に保管し、物置には鍵を掛けておくべきだった。物置に入らない場合は、雨樋(あまどい)などに、自転車やバイクに付けるチェーンロック(ワイヤーロック、U字ロックなどでも)で固定するなどして、容易には使えないようにしておかなければならない。
その物置そのものが足場にされることもあるので、物置の設置場所にも注意が必要だ。
脚立や物置以外では、意外にも自転車が使われることがある。敷地内に置いてある自転車を移動させて、足場にするのだ。
塀や隣の家の屋根が足場になることもある。そのように足場になりやすそうなものが容易に動かせない場合は、その足場から侵入されないように、窓やベランダを強化するしかない。防犯ガラスにしたり、赤外線センサーを取り付けて音や光で牽制(けんせい)したりするのである。

地域ぐるみの防犯態勢が功を奏する

防犯事例4:空き部屋を狙った居直り強盗イメージ画像4空き地は犯罪者が下見をしやすい絶好の場所である。夜、車を停めておいても、外から車内までは見えないから、犯罪者は好きなだけ狙った獲物を観察することができるのだ。
今回の犯人が捕まったのは、下見をしている犯人の車を不審車両だと思ってメモしておいた近所の商店主のお手柄である。地域の防犯パトロールに参加しているこの商店主が、毎晩のように空き地に停めている車に目をとめたということは、この地域の防犯意識が高まっていたことに他ならない。
侵入を企む人間は、地域の人から声をかけられるのをひどく嫌う。地域の人に声をかけられるだけで、犯行を諦める場合が多いのだ。これは、犯行を犯したあと、警察の聞き込みで、自分の存在が浮かび上がるのを恐れるからである。この認識が地域住民に広まるだけでも、犯罪率は一気に減るはずだ。
現在、全国で地域防犯パトロールに携わる人々は80万人以上いる(2005年6月現在、警察庁調べ)。多くの人々が防犯パトロールに参加し、防犯意識が高まっていけば、犯罪者が犯罪を犯しにくい社会が実現するのではなかろうか。実際、例えば「安全・安心まちづくり推進条例」を制定する地方自治体が現われたり、「犬の散歩にいく時は必ず携帯電話を持っていく」ように申し合わせる自治会が出たりするなど、各地で防犯のためのさまざまな工夫や努力がなされている。


梅本正行著「梅さんの次に狙われるのはあなたの家です!」(PHP出版)より抜粋

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