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オートロックを過信したツケ

防犯事例3:オートロックを過信したツケイメージ画像1安岡翔さん(28歳)は、大学時代に立ち上げたホームページ管理会社を友人と経営し、なかなかの成果を上げている起業家だ。妻の美鈴さん(33歳)は、外資系の銀行で運用アドバイザーとして活躍し、育児休暇の1年間を惜しむように過ごした後に現場復帰を果たしたキャリアウーマンである。
夫妻には亜里砂ちゃん(4歳)という娘がいるが、保育時間が長い保育園に預けており、2人は朝8時に自宅を出ると時には深夜まで帰宅しないこともあった。

2人は若いながらも頑張ってマンションを購入した。オートロックが完備され、昼間は管理人が常駐し、内装に高級感のある8階建てのマンションの5階を選んで入居した。
平日は留守にしている時間が長いものの、午後8時まではマンションのエントランスに管理人がいるし、なにしろオートロックなので、泥棒の心配はないと思っていた。そのため2人とも、施錠に関してはおろそかにしがちだった。

11月末の日曜日、最初に目覚めたのは翔さんだった。時刻はすでに午前10時に近づいている。美鈴さんは前夜は同僚の送別会があり、帰宅したのが午前1時で、床に就いたのは午前2時を回っていたため、まったく目覚める様子を見せなかった。
翔さんが起き出した物音で、亜里砂ちゃんも起き出してきた。3人は玄関から一番奥の、ベランダに面した部屋で一緒に寝ている。リビングルームで新聞を広げる翔さんを通り越してトイレに向かった亜里砂ちゃんは、ふと玄関脇にある部屋をのぞいた。
「ダディー、ご本のお部屋、どうしてあんなに散らかしちゃったの?」
亜里砂ちゃんは、夫婦が書斎代わりに使っているその部屋を「ご本のお部屋」と呼んでいた。
翔さんは、あまり頓着せず、
「マミーが、夜遅く帰ってきて捜し物でもしたんじゃないの?」
と答えたが、亜里砂ちゃんは納得しない様子だった。いつもは閉まっているドアが開いていることも不思議だったし、いくら大雑把(おおざっぱ)なマミーでもこんなには散らかさないと思ったのである。
リビングルームに戻らない亜里砂ちゃんの様子を見に行った翔さんも、部屋の状態を見て愕然とした。
翔さんは、亜里砂ちゃんに美鈴さんを起こすように言い、1人で荒らされた部屋に入っていった。書棚の本が20冊ほど抜き出され、床に散乱していた。その書棚に置いてあった、辞書にカモフラージュした貴重品保管箱が見当たらない。翔さんは必死に捜したが、キャッシュカードと現金300万円が入った保管箱は見つからないままだった。
その場に寝ぼけ眼(まなこ)でやってきた美鈴さんは、目を見張った。
「な、何これ......?」
やっと発した言葉だった。

前夜は帰宅が遅くなることで、亜里砂ちゃんの迎えには翔さんが行った。翔さんは亜里砂ちゃんとファミリーレストランで夕食を済ませ、午後9時には帰宅し、亜里砂ちゃんを風呂に入れて10時には床に就かせている。
その頃、「これから三次会に行きます」というメールを美鈴さんから受け取っている。翔さんはいつも寝不足気味なので、先に寝ることにした。「鍵は持ってる?」と翔さんが送ったメールにも「持っているから大丈夫、おやすみ~」と明るいメールが返ってきた。翔さんは亜里砂ちゃんの傍らで、数分と掛からず眠りに落ちた。
美鈴さんは、かろうじて間に合った終電車で帰宅した。駅からのバスは終わっていたのでタクシーを利用した。
美鈴さんはタクシーの車内で運転手とこんな会話を交わしている。
「この頃、このあたりで泥棒が多いらしいですよ。おたく、大丈夫ですか?」
「そうなの?でも、うちのマンションはオートロックだから心配ないわ」
帰宅した美鈴さんは、家族を起こさないように静かに玄関ドアを開け、そっとドアを閉めて部屋に入った。エントランスのオートロックへの過信と、飲酒による気のゆるみで、タクシーの運転手から泥棒の話を聞いていたにもかかわらず、いつものように施錠はしなかったのだ。
美鈴さんは入浴を済ませ、郵便物のチェックをしたあと、2時過ぎに家中の灯りを消して眠りについた。

安岡宅が消灯したのをマンション1階の吹き抜けから確認した男が、エレベーターで5階に上がり、前もって無施錠であることを知っていた安岡家のドアに手をかけた。すんなりとドアノブは回り、家人が寝静まった室内はなんとも無防備な状態になっていた。
男は手際よく玄関脇の部屋に入り込み、カモフラージュされた貴重品保管箱から盗みを働いた。すべてがわかっているかのような犯行だった。

犯人は、以前に観葉植物の鉢を届けに来た花屋の元店員だった。
「立派なマンションですね。それに、管理人さんもいるから安心ですね」
と話しかけた男に、
「そうよ。それに、オートロックだから鍵も掛けたことなんかないの」
と美鈴さんは自慢気に話してしまったのだ。男はこの言葉を聞き漏らさなかった。室内を見回すと、家具や調度品も立派なものが揃っており、玄関に置かれた靴も高級ブランド、そして美鈴さんの指にはいかにも高価そうな指輪が光っていた。

男には侵入窃盗の前科があった。真面目に花屋で働くようになっていたが、美鈴さんの言葉を聞き、豊かな様子を見ているうちに、過去の悪癖が再燃してしまったのだ。
男は昔の仲間に声をかけ、2人で24時間態勢の監視を続けて、翔さんの会社や美鈴さんの仕事も調べ上げた。翔さんが経営者であり、月末には給料に充てる現金を持ち帰ることもわかっていた。現金を自宅に持ち帰った日がチャンスであり、家人が寝静まれば犯行はやりたい放題だと見越していた。
2人組は、人を傷つけてまでの犯行は望んでいなかった。ただ、楽して大金をつかみたかったのだ。そんな2人にとって、安岡家は絶好のカモだった。

主犯の30代の男は捕まらなかったが、相棒の40代の男が後日、事務所荒らしで警察に捕まったことで、事件の全貌が明らかになった。
侵入当日、翌週の月曜日が翔さんの会社の給料を手渡す日であることを突き止めていた男は、朝から翔さんのあとをつけていた。案の定、午後2時過ぎに銀行に向かった翔さんは、ATMから数回に分けて現金を引き出した。男たちは、この日を犯行日に決めた。

なんと、犯人たちは、翔さんの帰宅と一緒にマンション内に侵入したのだった。翔さんは無頓着なほうだったので、よその家のお客さんだとしか思わなかったという。
敷地内に入った2人組は、ベランダ側の窓が見える中庭に潜んで犯行の時を待った。予想よりも美鈴さんの帰宅が遅かったものの、2時に消灯した場合、4時になれば犯行が可能であると踏んでいた。

すべてが首尾よく、しかも思った以上に大金を手に入れることができた犯人は、しばし満足の日々を過ごしていたのである。
安岡夫妻はそうはいかない。オートロックによる安全を過信したことと、大金を自宅に保管していたこと......、すべてが反省の材料だった。

管理人がいても油断するな

防犯事例3:オートロックを過信したツケイメージ画像2就寝中に入られるのを「忍び込み」、警察用語で「のび」という。
この事件は、最近のマンションに住んでいる人が陥(おちい)りやすい典型的なケースである。
まず、時間限定とはいえ管理人がいること。そしてエントランスがオートロックであること。この2つが気のゆるみを招き、犯罪を招いた。
管理人がいるマンションであっても、24時間態勢で常駐している所は多くない。時間が限られていたり、時間内でも席を外したりするのはよくあることだ。狙いを定めた侵入者なら、管理人が席を外した時や引き上げた時を見逃さず、入ろうとするだろう。
新たにマンションを選ぶ場合、「管理人がいる」というだけで安心してはならない。まず、管理人室がエントランスを見渡せる位置にあること。管理人室に、マンション内の要所に設置された防犯カメラの画像をモニター・録画できる装置があること。管理人室の扉やガラス窓そのものに防犯対策が施され、警報ベルなどと連動したセンサーが設置されていること。管理人が不在の時間帯は警備委託や機械警備がなされていること。これらの条件をなるべく満たしていることを確認する必要があるだろう。

オートロックでも施錠は必要

防犯事例3:オートロックを過信したツケイメージ画像3オートロックのエントランスといっても、入ることは簡単だ。住人や出入りする業者が入ったすぐ後ろについて入ればいいだけなのだから。複数の犯人でも、談笑しながら入ってくれば怪しむ人はいないだろう。
たとえ、オートロックで管理人が常に目を光らせているエントランスだったとしても、何らかの方法で暗証番号(部屋番号を押してインターフォンを鳴らすボタンだが、設定された数字を押すとエントランスからも開錠できるタイプがある)を知られる可能性がある。また、エントランスからは入りにくいマンションでも、自転車置き場や駐車場から中に入れるマンションは意外に多いものだ。
このご時世、どんな家でも施錠は必須である。管理の行き届いた高級マンションであれ、人里離れた一軒家であれ、狙われないという保証はどこにもないのだ。
また、施錠はもちろんだが、できることならドア用補助錠を付けて、ワンドア・ツーロックにすることが望ましい。

梅本正行著「梅さんの次に狙われるのはあなたの家です!」(PHP出版)より抜粋

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