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窓に設置した「気休め」の補助錠

防犯事例1:窓に設置した「気休め」の補助錠イメージ画像1都心から一時間ほどの住宅地に住む榊原家は、浩さん(46歳)、光子さん(45歳)、それに息子2人の4人家族だ。家は数年前に30年のローンを組んで購入した、約30坪の土地付き一戸建てである。

同じような家が建ち並ぶこの街にも、やっと手に入れた念願のマイホームにも、光子さんはとても満足していた。
電車の最寄り駅から徒歩7、8分で行ける、住宅地の中でも駅に近い所にあるので、どこへ出かけるにも楽だった。バス通りから1本奥に入った所にあるため、車の音に悩まされることもない。
2階建てで、駐車スペースのほかに手狭ながらも庭があり、光子さんが欲しかったものは全部揃っている。東南の角地なので日当たりも風通しもよく、快適だった。それまでの賃貸マンションから一戸建てに引っ越したことで、光子さんの長年の夢だった猫も2匹飼い始めた。
榊原家は、街の住人が駅に行くのに利用する道に面しているため、家の前は人通りが多い。また、専業主婦の光子さんは買い物に行く以外、あまり外出をしないほうだった。だからまさか自分の家が空き巣に入られるなどとは、光子さんは夢にも思っていなかった。それでも、日が落ちる頃には外灯をともし、外出する時には家中の施錠を確認するぐらいのことは怠っていなかった。

その夏は猛暑だった。光子さんはいつも日中の外出を避けて、買い物は夕方にしていた。
暑さにうだる8月中旬のある日、夕方とはいえ蝉時雨(せみしぐれ)が街中に響く中を、ひと通りの戸締まりを確認した光子さんはいつものように夕食の買い物に出かけた。家を出てから帰宅するまでに1時間足らずの外出である。

駅前での買い物を終え、暑さでへとへとになって帰宅した光子さんは、すぐに家中の窓を開け放そうとした。
そして駐車スペースの奥にある部屋に入った時、光子さんは異変に気づいた。その部屋から縁側へ出入りできる窓、いわゆる掃き出し窓が、ぴったりと閉まっていたのだ。その窓はいつも猫が自由に出入りできるように、15センチほど開けておくのが習慣だった。
「あら、開けていくのを忘れたのかしら......」
だが、開けた時に止めておいた補助錠が見当たらない。猫が通れる幅以上は開かないように付けているもので、サッシ窓用補助錠として本来の使い方ではないと知ってはいたが、開けっ放しはさすがに不安なので、何もないよりはいいと思って使っていたのだ。

なんとなく不穏に感じた光子さんは、2階の部屋を確認しに行った。すべてのドアを閉めて出かけたはずなのに、主寝室のドアが少し開いている。寝室のドアを開けた光子さんは、おののきながらも叫んでみた。
「誰?誰かいるの?」
自分の声だけが、人のいない家に響いた。おそるおそる室内に入ると、クローゼットの扉が開いたままになっている。クローゼットの中の、毛布をのせてカモフラージュしてあった手提げ金庫はなくなっていた。その中には、家の権利証書、生命保険証書、定期預金証書、実印、印鑑登録証、そして現金30万円が入っているはずだった。
光子さんは、震えが止まらないまま、すぐに浩さんの会社に電話をした。会議中のところを呼び出してもらい、すぐに帰宅してくれるように頼んだ。
受話器を置いた光子さんは、そのまま崩れ落ちるように床に座り込んでしまった。もはや警察に電話することも、家の中を見回ることもできなかった。ショックのあまり何も考えられなくなっていたのだ。
1時間半ほど経って、ようやく浩さんが帰宅した。浩さんは呆然(ぼうぜん)としている光子さんから、外出した時の様子や被害の状況などを聞き出そうとした。だが、ショックで混乱している光子さんは、1階の窓が閉まっていたという異変についても思い出せない。かろうじて外出した時間だけは把握できたところで、浩さんはようやく警察に通報した。
警察官が到着する前に、浩さんは家の中を見回った。縁側に面した掃き出し窓のある部屋に入ると、いつも使っている補助錠が部屋の隅に転がっている。どうやら犯人が侵入する時に、少し開いていた窓を力まかせに開け、その拍子に補助錠が飛ばされたようだった。
庭を見ると、いつもは人が歩かない芝生の上にえぐれたような跡があった。
猫の出入りのために少しだけ開けておいた掃き出し窓が侵入口となったのは間違いない。

実はこの住宅地では、最近になって空き巣被害が多発していた。それなのに光子さんは、「うちは人通りが多い角地にあるし、私はほとんど家にいるんだから大丈夫」だと思い込んでいた。安心しきっていた光子さんを突き崩した衝撃は大きかった。
だが、そもそも、その安心が甘かったのだ。実際、家の前の道は、通勤通学の時間帯こそ大勢が往来しているものの、昼間はほとんど人通りがない。歩いているのはせいぜい戸別訪問のセールスマンぐらいである。光子さんもセールスマンの姿は見慣れていた。その日も外出した時にセールスマン風の男とすれ違ったが、特に気にとめることはなかった。
榊原さんの家に侵入した男は、毎朝その住宅街のはずれに車を停めて下見に回っていた窃盗の常習犯だった。セールスマンのふりをして街の中を歩き、目をつけた何軒かの家が留守になるのを待っていたのだ。2ヵ月にわたる下見の結果、光子さんの家は標的の1つに入っていた。

その日、光子さんは買い物に出る姿を見られていた。服装などからして遠くまで出かけるとは思わなかったが、男にはお金のある場所の見当がついていたので仕事は楽だった。
男は下見をした時に、2階の窓にペアの布団が干してあるのを見ていた。夫婦の寝室であることが容易に推測できたため、男は侵入後その部屋へ直行したのだ。狙い通り、夫婦の寝室には金庫が隠されていた。

男にとって好都合だったのは、それだけではない。草花の手入れが好きだった光子さんは、庭に花壇を作って季節の花を育て、庭を囲むようにいろいろな木も植えていた。夏には低木の葉が茂る。一旦庭に入り込んでしまえば、その葉が隠してくれるので、不審者の姿はもはや道からは見えないのだ。もちろん、縁側に面した掃き出し窓のあたりも、外からは見ることができない。
実際に、犯人は駐車スペースにある車の後ろから掃き出し窓のある庭に入っていった。車の所さえ誰にも見られずに通ってしまえば、あとは庭木がその姿を隠してくれる。また、庭が芝生だから足音もしない。そして、力まかせにサッシを開けたことで飛ばされた補助錠も、家の中に転がっただけなので物音は出なかった。

後日、捕まった犯人の手帳には、克明に下見をした家々の家族構成、外出時間などの情報が数十軒分も書き込まれていた。インテリアやカーテンから推測される部屋の持ち主まで、すべて記されていたのだ。ちなみに、榊原家のところには◎が付いていた。

「人通りが多い」「角地」の家は下見にうってつけ

防犯事例1:窓に設置した「気休め」の補助錠イメージ画像2平凡な日常を襲った空き巣事件である。だが、これこそ空き巣の基本的なパターンだ。光子さんはまったくわかっていないが、榊原家の立地は泥棒にとってかなり狙いやすい条件を揃えている。
まず、人通りの多い道路の角地にあるというロケーションの危険性を知ってほしい。犯人にとっては、家の様子を他方向からじっくり観察できるので、どこに誰の部屋があるのかが容易にわかる。そして住人としては、人目が多いだけに安全だろうと思って油断しやすい。
さらに、榊原家はバスが通る幹線道路から1本奥に入った道に面している。この手の道は侵入犯罪が多発していることから、警察関係では「どろぼう道」と呼ぶ人もいる。人や車の往来が多いため、住人は見知らぬ人がいても気にとめない。下見には好都合だ。また、逃走する際に幹線道路に出やすいことも、侵入者にとっては有利な要素である。逆に、住宅地の奥まったところであれば、決まった人しか通らないので知らない人は目を引くし、逃走もスムーズにはいかない。

空き巣が住人の不在を確認する方法

防犯事例1:窓に設置した「気休め」の補助錠イメージ画像3下見をして、入る家に目星をつけた空き巣は、住人が留守になるのを待つ。あるいは、たまたま外出するのを見かけて、その家に入ろうと決めることもある。
いずれにせよ、住人が外出するのを見ただけで判断することはなく、家に誰もいないかどうか確認するのが空き巣のやり方だ。
確認方法としては、まずインターフォンを押してみる。あるいは電話をかけてみる。電話番号を知るのは簡単だ。電話帳に登録している家であれば、104で簡単に番号を教えてもらえる。たとえ表札に名字しかなかったとしても、電柱を見れば住所はわかるから特定できてしまうのだ。あるいは、大きな音がするように投石する場合がある。戸袋、窓、玄関などに石を投げたあと1ブロック歩いて回り、戻ってきた時に誰もいなければ留守だと判断するのだ。このように不在かどうか判断する幾つかの方法を「あたり行為」と呼ぶ。

補助錠の落とし穴

防犯事例1:窓に設置した「気休め」の補助錠イメージ画像4犯罪者は、外から見えない場所を選んで、そこから侵入を図る。死角になっている勝手口や窓がそれで、特に掃き出し窓は最も狙われやすい。
光子さんの場合、その最も狙われる所に、用途の異なる窓用補助錠を使っていたことに問題がある。少し力を入れただけで開いてしまうような補助錠ではないに等しく、実際には役に立たない。にもかかわらず付けたことで安心してしまい、そこに隙ができてしまうのだ。「補助錠」ではなく、「気休め錠」と呼びたいような代物だ。
まず、しっかりとした補助錠を付ける必要がある。窓は絶対に閉めておけというのではない。ペットも大切な家族の一員だろうし、窓を開ける必要性は理解できる。ペット用に限らず、空気を入れるために少しだけ窓を開けておきたい人は少なくない。自分で開けた幅以上に開く心配のない、頼りになる補助錠が市販されているので、付けてみることをお勧めする。
空き巣に入られた光子さんの最も大きな問題点は、この住宅地で空き巣被害が多発しているという事実としっかり向き合って生活していなかったことだと言えよう。

梅本正行著「梅さんの次に狙われるのはあなたの家です!」(PHP出版)より抜粋

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